生活保護で「してはいけないこと」は2種類ある
生活保護で注意したいことは、大きく2つに整理できます。1つは、収入・資産・世帯の変化の届出や、適法な調査・指導への対応など、法律に基づく義務です。もう1つは、借金やギャンブル、車の保有・使用など、生活の維持や資産の活用という制度の趣旨に照らして注意が必要な行動です。
生活保護法は、受給者の「生活上の義務」(第60条)、「届出の義務」(第61条)、「指示等に従う義務」(第62条)などを定めています。第62条に基づく指示に違反した場合は、保護の変更・停止・廃止が可能とされています(同条第3項)。ただし、単に不安な点を質問したり、事情を説明したりすること自体が違反になるわけではありません。
パチンコや競馬などを一律に禁じる条文はありません。ただし、生活費を圧迫するほどの支出が続けば、家計の改善に向けた指導の対象になることがあります。
以下では、届出や調査など法律上の義務に関わる行動と、借金・ギャンブル・車の扱いを分けて説明します。
保護の停止や返還につながる行動
次の5つは、届出、調査への対応、権利の譲渡禁止など、生活保護法に直接関わる事項です。保護費の返還や支給の変更につながるかどうかは、行為の内容と個別の事情によって異なります。
収入を申告しない
厚生労働省は、生活保護の受給中は収入の状況を毎月申告するよう案内しています。生活保護費は、最低生活費から収入を差し引いた額で決まるためです。
申告が必要な収入には、次のようなものがあります。
・アルバイトやパートなどの給料、内職の収入
・年金、手当、雇用保険などの給付
・仕送り、保険金、慰謝料などの臨時収入
・世帯の高校生のアルバイト収入
収入が少額でも、賞与や一時的な収入であっても、受け取ったことは申告する必要があります。なお、申告した金額がすべて保護費から差し引かれるわけではなく、勤労収入には基礎控除などが適用されます。「これくらいなら」と自己判断せず、担当のケースワーカーに伝えましょう。
預貯金や資産の状況を伝えない
資産の状況は、申請のときだけでなく受給中も伝える必要があります。たとえば愛知県一宮市では、年に1回、世帯全員の預金通帳の写しなどを添えて資産申告書を出すよう案内しています。
生命保険の入院給付金や解約返戻金、交通事故の賠償金などを受け取った場合も、まず申告が必要です。収入認定の対象となるか、療養や自立更生のために使う額が認定から除かれるかは、給付の性質や事情によって判断されます。また、急迫の場合などに資力がありながら保護を受けたときは、生活保護法第63条に基づき、受けた保護金品相当額の範囲内で定められた額の返還義務が生じます。
同居・転居など世帯の変化を届け出ない
生活保護は、原則として世帯を単位に決まります(生活保護法第10条)。そのため、世帯の人数や住まいが変わったときは、すみやかに届け出る義務があります(第61条)。
届け出が必要になる主な場面は、次のとおりです。
・家族が増えた、減った(同居、結婚、出産、死亡など)
・就職や退職をした
・家賃が変わった、引っ越しが必要になった
・入院や長期の外出で家を空ける
同居する相手と同じ世帯として扱われ、その相手に収入があれば、保護費の計算が変わることがあります。届出が遅れると、過払いとなった保護費について返還などの手続きが必要になることもあるため、変化が生じたら速やかに連絡しましょう。
ケースワーカーの指示や訪問調査を拒む
福祉事務所は、生活の維持や向上のために必要な指導や指示をすることができます(生活保護法第27条)。受給者には、この指示に従う義務があります(第62条)。
ただし、指導や指示は受給者の自由を尊重し、必要な最小限度にとどめるものと定められています(第27条第2項)。第62条第3項に基づき保護の変更・停止・廃止をする場合、実施機関は事前に理由などを知らせ、受給者に弁明の機会を与えなければなりません(第62条第4項)。
厚生労働省は、世帯の実態に応じてケースワーカーが年に数回の訪問調査を行うと案内しています。生活保護法第28条に基づく報告や立入調査を拒んだり、虚偽の報告をしたりすると、保護の変更・停止・廃止などの対象となることがあります(同条第5項)。訪問の日時が合わない場合は、調査そのものを拒否するのではなく、日程変更を相談しましょう。
保護を受ける権利を他人に譲る
保護を受ける権利は、他人に譲り渡すことができません(生活保護法第59条)。保護費は、受給している本人と世帯の最低限度の生活を支えるためのお金だからです。
生活保護法第58条は、既に受け取った保護金品や保護を受ける権利などの差押えを禁止しています。また、第57条は保護金品を基準として租税その他の公課を課すことを禁止しています。これは受給者のすべての収入が非課税になるという意味ではありません。
生活保護中に避けたいお金の使い方
ここでは、生活費の維持や制度上の資産の取扱いに関して注意したい行動を取り上げます。借金やギャンブルがすべて法律で禁止されているわけではありませんが、支出の節約などを求める生活保護法第60条や、資産活用の原則との関係で問題になることがあります。
新たに借金をする・保護費で借金を返す
生活保護を受けている間の新たな借入れや、保護費からの借金返済には注意が必要です。家族や知人から借りたお金も、原則として収入認定の対象になります。ただし、事前に承認された就学・自立更生のための一定の貸付金など、収入認定しない取扱いが認められる場合もあります。
借入金が収入認定されると、その分の保護費が減額されるため、借入先への返済義務と重なる負担が生じます。愛媛県新居浜市も、借金と保護費の調整による負担を避けるため、安易な借入れをしないよう案内しています。
借金があるというだけで生活保護を申請できなくなるわけではありません。厚生労働省は、住宅ローンがあっても保護を受けられないとは限らない一方、保護費から住宅ローンを返済することは原則として認められないと説明しています。ローン返済中の住宅の保有は保護の適用上、原則として問題となるため、個別に相談が必要です。
奨学金などの借入れを考えている場合は、申し込む前に福祉事務所へ相談してください。すでにある借金の返済が難しいときは、保護費から返済を続ける前に、法テラスや弁護士・司法書士への相談を検討しましょう。
ギャンブルにお金を使う
パチンコや競馬などのギャンブルを生活保護法が一律に禁止しているわけではありません。ただし、生活費を浪費し、生活の維持に支障が生じる場合には、家計管理などについて指導を受けることがあります。
ギャンブルで得た払戻金や賞金は、収入として申告する必要があります。競馬などでは、賭け金を必要経費として差し引けない取扱いが示された事例もあります。収支が赤字だから申告しなくてよい、とは考えないでください。
自動車を持つ・運転する(例外あり)
自動車は資産に当たるため、生活保護では保有や使用が原則として認められません。自分名義でない車を借りて運転する場合も、使用の問題が生じます。ただし、必要性や維持費などの要件を満たす場合には、保有・使用が認められることがあります。
たとえば、次のような事情では、所定の要件を満たせば保有が認められる場合があります。
・障害のある方が通勤・通院・通学などに使う必要がある場合
・公共交通機関の利用が著しく難しい地域で、通勤・通院などに必要な場合
また、通勤用の車を保有したまま求職を続けられる場合や、原動機付自転車の保有・使用が認められる場合もあります。いずれも一律の許可ではないため、車を購入・使用したり処分したりする前に、福祉事務所へ相談しましょう。
「してはいけない」と誤解されやすいこと
生活保護には、実際には禁止されていないのに「してはいけない」と思われがちなこともあります。ここでは代表的な4つを取り上げます。
結婚・同棲・出産はできる(届け出は必要)
生活保護法に、結婚や同棲、出産を禁じる規定はありません。出産にかかる費用は、出産扶助として支給される場合があります。
結婚や同棲によって同じ世帯として扱われる場合、相手の収入も含めた世帯の状況により、保護費が変わったり保護が不要になったりすることがあります。出生による世帯人数の変化も届出の対象です。世帯の状況が変わるときは速やかに届け出ましょう(生活保護法第61条)。
引っ越しはできる(事前の相談が必要)
生活保護を受けていても、引っ越しはできます。ただし、住所や家賃の変更は届出の対象であり、家賃や転居費用の取扱いにも基準があります。物件を契約する前に福祉事務所へ相談しましょう。
家賃は、原則として住宅扶助の限度額の範囲内で認定されます。限度額を超える住宅でも、生活費から差額を払えば必ず認められるわけではありません。転居先の家賃が高額な場合は、より適切な物件を選ぶよう助言・指導されることがあり、転居費用が支給されない場合もあります。
目的のある貯金は認められる場合がある
生活保護の申請時には、活用できる預貯金などの資産を生活のために用いることが原則です。ただし、受給中に支給済みの保護費をやりくりして生じた預貯金まで、一律に保有が禁止されているわけではありません。
厚生労働省の実施要領では、支給済みの保護費をやりくりしてできた預貯金について、未申告収入などによる蓄えでないことを確認したうえで、使い道が生活保護の趣旨・目的に反しなければ、保有を認めて差し支えないとされています。最高裁判例でも、生活保護の趣旨・目的にかなった貯蓄は活用すべき資産に当たらないと示されています。
家電の買い替えや進学に備えるなど、具体的な目的がある貯蓄でも、原資や使途の確認を受ける場合があります。金額だけで一律に可否が決まるものではないため、まとまった額になる場合は担当のケースワーカーへ相談しましょう。
スマホは持てる
生活保護法には、受給者が携帯電話やスマホを持つことを禁止する規定はありません。福祉事務所との連絡や求職活動にも、電話番号は役立ちます。
ただし、生活保護法第60条は支出の節約を求めています。通信料の高いプランや高額端末の購入は家計を圧迫することがあります。端末の分割払いを利用すると支払義務が生じるため、支払いに不安がある場合は事前にケースワーカーへ相談しましょう。
うっかり違反してしまったときにいまからできること
収入の申告漏れや世帯の変化の届出忘れに気づいたら、できるだけ早くケースワーカーへ伝え、必要な訂正や提出書類を確認しましょう。自分から報告しても、過払い分の返還義務がなくなるとは限りませんが、状況を正しく伝えることが大切です。
保護費の返還・徴収については、主に次の2つの仕組みがあります。
・生活保護法第63条(費用返還):急迫の場合などに資力がありながら保護を受けたとき、受給した保護金品に相当する額の範囲内で、実施機関が定めた額を返還します。
・生活保護法第78条(不正受給費用の徴収):うその申請など不正な手段で保護を受けたとき、保護費の全部または一部に加え、その徴収額の40%以下の金額を徴収される場合があります。
申告漏れがあったからといって、必ず第78条の不正受給に当たるわけではありません。故意の虚偽申告などがあれば不正受給と判断され、事案によっては刑事責任を問われることもあります。第63条の返還か第78条の徴収かは、申告内容や受給時の事情などに基づいて判断されます。
借金の返済に困っている場合は、法テラス(日本司法支援センター)や、弁護士・司法書士への相談を検討してください。債務整理の方法や可否は、個別の事情によって変わります。
保護の変更・停止・廃止や返還・徴収の処分に納得できない場合は、審査請求などの不服申立てができます。申立てには期限があるため、処分通知書に記載された案内を確認し、必要に応じて自治体や法律の専門家へ相談してください。
携帯契約に困ったら即モバ
収入の申告、訪問の日程調整、引っ越しの事前相談など、生活保護では福祉事務所との連絡が続きます。気になることがあれば、早めに伝えられる連絡手段を確保しておくと便利です。
携帯電話の番号があれば、福祉事務所との連絡だけでなく、求人への応募や採用に関するやりとりにも使えます。
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